TOPICS
お知らせ / コラム
韓国籍の方が亡くなった場合、その相続には韓国民法が適用されます(法の適用に関する通則法36条)。これは相続人が日本国籍であっても、被相続人(亡くなった人のことです。)が日本に長年住んでいたとしても変わりはありません。そして相続に関する日本民法と韓国民法には異なる規定が複数あります。そこで以下では相続人の範囲と法定相続分につき、両法の違いを具体的に説明したいと思います。

亡くなった夫が日本国籍の場合は日本民法が適用されます。日本民法887条では、第1順位の相続人は「被相続人の子」とされてますが、右の事例では、子はいずれも相続放棄をしています。この場合、次順位の血族相続人が相続人となります。子全員の法定相続分が配偶者のものになるのではないのでご注意ください。右の事例(夫の両親は既に亡くなっています。)の次順位の血族相続人は兄弟姉妹である夫の妹です。そのため右の事例の相続人は、妻と夫の妹です。そして法定相続分は、妻が4分の3、夫の妹が4分の1です。なお、相続放棄は代襲相続の原因にはならないので、上記事例では代襲相続は生じず、孫らは相続人にはなりません。
亡くなった夫が韓国籍の場合、韓国民法が適用されます。韓国民法では、第1順位の相続人は「被相続人の直系卑属」とされています(韓国民法1000条1項1号)。直系卑属とは、子、孫、ひ孫のことです。子と孫がいる場合には、親等が近い子のみが先順位で相続人になります(同法1000条2項)。つまり、第1順位の直系卑属のうち、子のグループが先順位であり、孫のグループが後順位になります。これらの規定は上述の日本民法の規定と異なりますのでご注意下さい。
それでは、妻と子のうち、子全員が相続放棄をした場合、相続人は妻と孫A、孫B、孫Cの共同相続になるのでしょうか、それとも妻の単独相続になるのでしょうか。この点についてかつての判例(韓国最高裁判所2015年5月14日判決、以下「従前判例」といいます。)によると、上記事例では相続人は妻と孫A、孫B、孫Cであるとされていました。2023年以前に発行された文献においても、韓国民法1000条1項1号などを根拠に、配偶者が相続放棄をしていないケースも含めて、「子が全員相続放棄した場合には、孫が直系卑属として相続人になる」などと解説されていました。そしてこの場合の孫らの相続分は、本位相続であるから、それぞれ均分とされていました(本位相続なので、孫Aが2分の1、孫B、孫Cが各4分の1とはなりません。)。
しかし、韓国最高裁判所2023年3月23日決定(以下「本件判例」といいます。)は、上記従前判例を変更して、配偶者と子のうち、子全員が相続放棄をしたケースでは、子に孫がいたとしても、孫と配偶者の共同相続にはならず、配偶者の単独相続になると判示しました。本件判例では様々な理由が判示されており、例えば、韓国民法の固有の特徴(配偶者相続と血族相続を特に区別していないなど)などが詳細に指摘されています。本件判例からすると、上記事例では妻の単独相続になります。孫A、孫B、孫C、夫の妹は相続人にはなりません。

事例2は子らのみならず、妻も相続放棄をしているケースです。亡夫が日本国籍で日本民法が適用される場合、妻、子A、子Bの相続放棄により、第3順位の兄弟姉妹である夫の妹が単独相続します。相続放棄は代襲相続の原因ではないので、孫A、孫B、孫Cは相続人にはなりません。
上記事例では、韓国民法1000条1項1号により、孫A、孫B、孫Cが本位相続するとされています(判例)。この事例2では、事例1とは異なり、子のみならず妻も相続放棄をしています。この場合妻も子らも最初から相続人ではなかったと扱われることになりますので、第1順位の直系卑属の後順位である孫A、孫B、孫Cが相続します。そしてこの相続は代襲相続ではなく本位相続なので、孫A、孫B、孫Cの各法定相続分は各自3分の1です(孫Aが2分の1、孫B、孫Cが各4分の1とはなりません。)。

子が夫よりも前にいずれも全員亡くなっていた場合はどうでしょうか。日本民法が適用される場合、代襲相続が生じ、孫らが代襲相続をします。そうすると、右の事例では妻と孫A、孫B、孫Cが相続人です。法定相続分は、妻が2分の1、孫Aが4分の1、孫Bが8分の1、孫Cが8分の1です。
韓国民法が適用される場合、上記事例では、孫らが代襲相続するのか、本位相続するかで争いがあるようですが、代襲相続が判例とされています。そのため、上記事例では孫A、孫B、孫Cが子らを代襲相続して相続人になります。韓国民法における法定相続分は、同順位の相続人の相続分はすべて均等で、配偶者についてのみ5割加算するとされています。計算すると妻:亡子A:亡子B=1.5:1:1=3:2:2です。そして亡子Aの相続分は孫Aが代襲相続し、亡子Bの相続分は孫B、孫Cが1:1の割合で代襲相続しますので、法定相続分は、妻:孫A:孫B:孫C=3:2:1:1です。分数で表すと、妻が7分の3、孫Aが7分の2、孫Bが7分の1、孫Cが7分の1です。

日本民法が適用される場合、相続人は妻、子A、孫です。孫は子Bを代襲相続します。妻Bは代襲相続をしません。法定相続分は、妻が2分の1、子Aと孫が、各4分の1です。
韓国民法が適用される場合、相続人は妻、子A、妻B、孫です。妻Bと孫が、子Bを代襲相続します。妻Bが代襲相続する点が日本民法と異なります。
それでは法定相続分はどうなるのでしょうか。韓国民法では、配偶者についてのみ5割を加算するとされているので、妻:子A:亡子Bの法定相続分は、1.5:1:1=3:2:2です。そして亡子Bには代襲相続が生じますので、亡子Bの相続分は、妻Bと孫が、1.5:1=3:2の割合で代襲相続します。法定相続分を計算すると、妻:子A:妻B:孫=15:10:6:4となります。
このように相続に関して日本民法と韓国民法で異なる点が複数あり、また韓国民法の中でも様々な解釈があります。具体的事例を検討する場合には、韓国民法と日本民法の違いに留意するとともに、必要に応じて専門家に相談する方がよいでしょう。